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「行列」を使ってエラー訂正をしよう
リード・ソロモン符号とエラー訂正の方法
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独極・QRコード担当の「あじな」です。
前回解説した「行列」の「掛け算」について、計算ルールの意味を見てみましょう
QRコードの計算には、前回紹介した掛け算のやり方さえわかっていればよいのですが、行列同士の掛け算の意味がわかっていたほうが、すっきりと理解できると思いますので、この解説を読んでみてください。

これまでの復習 [表示する]

  1. QRコードは株式会社デンソーが作ったもので、スマホや携帯で読み取れる
  2. QRコードは「小さな白と黒の四角でできている」「多少汚れても大丈夫」という特徴がある
  3. 白黒の四角を使うのは、コンピュータにわかりやすくさせるため
  4. QRコードは「機能パターン」と「符号化領域」で出来上がっている
  5. 「機能パターン」は、「クワイエットゾーン」「位置検出パターン」「位置検出パターンの分離パターン」「タイミングパターン」「位置合わせパターン」の5種類
  6. 「符号化領域」は「形式情報」「型番情報」「データ領域」の3種類
  7. 「形式情報」は「エラー訂正レベル」と「マスクパターン参照子」で決まり、「\(4 \times 8=32\)」種類のパターンがある
  8. 「型番情報」は「QRコードのバージョンによって決まり、40種類ある
  9. 「データ領域」は「データ」と「エラー訂正情報」で出来上がる
  10. QRコードはバージョンが1~40まである。一辺の大きさは、「QRコードのバージョン(1~40)\( \times \)4\( + \)17」
  11. 「エラー訂正レベル」は「L(7%の汚れまで)」「M(15%の汚れまで)」「Q(25%の汚れまで)」「H(30%の汚れまで)」の4種類ある。
  12. 「エラー訂正レベル」が「L」だと「QRコード」で表現できるデータの量は最大で、「H」のときに最小になる。
  13. 「1bit」とは白・黒、1・0のような2種類の情報を表すことができる能力のことで、文字を増やすと「2bit(4種類)」「3bit(8種類)」と表現できる種類が増える
  14. 日常の言葉を「エンコード」して「コード(符号)」に置き換え、「コード(符号)」を「デコード」して日常の言葉に戻す
  15. QRコードの「エンコード」方式は「数字モード」「英数字モード」「漢字モード」「8bitモード」の4種類
  16. どの「エンコード」方式でも、データは「モード指示子」+「文字数指示子」+「データ」+「終端パターン」+「埋め草ビット」+「埋め草ワード」となる
  17. QRコードには「白」と「黒」を読み間違えても、元の情報を復元する「エラー訂正」能力が備わっている
  18. 「エラー訂正」は読み取れた(聞き取れた)言葉から最も近い「ありえそうな単語」を推測すること
  19. 「エラー訂正力が強い」ということは、「あえて使っていない単語が多い」ということと同じで、効率性は悪い
  20. 1,0でできている符号では「ハミング距離(2つの符号間で1と0が異なる箇所の個数)」があり、符号間で最も「ハミング距離」が小さいものを「最小距離」と呼ぶ
  21. 使える「単語」を制限すると「最小距離」は大きくなる
  22. 「最小距離」の半分までのエラーであれば訂正することができる
  23. 「単語」を「符号化」したものに、適当な「1」や「0」を後ろにつけると「最小距離」が大きい「エラー訂正機能付符号」になる
  24. 「エラー訂正機能付符号」を作る際は「符号」に「行列(生成行列)」を掛け算する。
  25. 「QRコード」は「リード・ソロモン符号」と呼ばれる方法で「エラー訂正機能付符号」を作る
  26. 「行列」は数字を並べただけのもので、もともとは「連立方程式」の係数だけ抜き取ってならべたもの
  27. 「行列」の「足し算」「引き算」は各「行列」の要素同士を「足し算」「引き算」したもの
  28. 「行列」の「掛け算」は、左の「行列」から「行」を取り出し、右の「行列」から「列」を取り出して、それぞれの要素を掛け算して足し合わせる
  29. 左の「行列」の大きさが「a行b列」で、右の「行列」の大きさが「b行c列」だった時、「掛け算」結果の行列は「a行c列」になる

「掛け算」の意味

前回の解説でみたように、「行列」同士の「掛け算」の結果は次のようになります。
  1. 行列同士の掛け算の結果は行列になる
  2. 答えの行列のサイズは、「左の行列」の行数×「右の行列」の列数となる
  3. 答えの行列のa行b列目の要素は左の「行列」から「a行」を、右の「行列」から「b列」をとってきて、それぞれの要素を掛け算し合計したものとなる

ところで、なぜ、「行列」の「掛け算」ってこんな複雑なやり方をするのでしょうか?

「足し算」や「引き算」と同じように、2つの「行列」の要素同士を「掛け算」すればいいのに、なんでこんな複雑なことをしているのでしょうか?
(ちなみに、「行列」に要素同士を「掛け算」する計算も地味に存在します。要素同士を掛け算する計算は「アダマール積」と呼ばれていますが、滅多に使うことはないので行列の掛け算といえば、ここで解説している複雑なやつだと思ってください)

「行列」の「掛け算」を複雑にしている理由の一つは、「行列」と「連立方程式」の関係があるのではと思います。
以前の解説で、「行列」は「連立方程式」の係数だけ取り出したものという説明をしました。

\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 3x+2y+3z \\ 5x-10y+2z \\ 2x-3y-4z \end{array} \right. \end{eqnarray} この数式の\(x,y,z\)の係数だけ取り出すとこんな行列として書けます。
$$ \left( \begin{array}{ccc} 3 & 2 & 3\\ 5 & -10 & 2 \\ 2 & -3 & -4 \end{array} \right)\\ $$ では、この係数だけ取り出した行列に\(\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\)を掛け算してみてください。
掛け算のやり方は、覚えていますか?

$$ \begin{pmatrix} 3 & 2 & 3 \\ 5 & -10 & 2 \\ 2 & -3 & -4 \end{pmatrix} \times \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 3x+2y+3z \\ 5x-10y+2z \\ 2x-3y-4z \end{pmatrix} $$ あら、不思議。元の方程式になりました
これは、「行列」の「掛け算」は左の「行列」から「行」をとってきて、右の「行列」から「列」をとってきて、それぞれの要素を掛け算し合計するという規則だからこのような結果になるのです。
「行列」の「掛け算」が不思議なルールになっている理由がなんとなくわかったでしょうか?

さぁ、次回からもどんどん「行列」の深みにはまっていきます。