QRコードの概要
符号化(エンコード)
エラー訂正の概要
エラー訂正に必要な「行列」の解説
「行列」を使ってエラー訂正をしよう
リード・ソロモン符号とエラー訂正の方法
多項式の割り算
リード・ソロモン符号の作り方
ガロア理論と体
QRコードを作ろう
QRコードメーカー
独極・QRコード担当の「あじな」です。
いやぁ、数学の話をするときに、数字以外を使うってちょっとびっくりですよね。
自分の好きなものを使って数学を作れたら、少しは数学が楽しくなるかもしれないですね。
友達の名前を使って(健太郎+美紀=ゆかり)みたいな。。(←なんか人間関係を表してそうで、別の意味をもってしまうかもしれないですね・・・)

これまでの復習 [表示する]

  1. QRコードは株式会社デンソーが作ったもので、スマホや携帯で読み取れる
  2. QRコードは「小さな白と黒の四角でできている」「多少汚れても大丈夫」という特徴がある
  3. 白黒の四角を使うのは、コンピュータにわかりやすくさせるため
  4. QRコードは「機能パターン」と「符号化領域」で出来上がっている
  5. 「機能パターン」は、「クワイエットゾーン」「位置検出パターン」「位置検出パターンの分離パターン」「タイミングパターン」「位置合わせパターン」の5種類
  6. 「符号化領域」は「形式情報」「型番情報」「データ領域」の3種類
  7. 「形式情報」は「エラー訂正レベル」と「マスクパターン参照子」で決まり、「\(4 \times 8=32\)」種類のパターンがある
  8. 「型番情報」は「QRコードのバージョンによって決まり、40種類ある
  9. 「データ領域」は「データ」と「エラー訂正情報」で出来上がる
  10. QRコードはバージョンが1〜40まである。一辺の大きさは、「QRコードのバージョン(1〜40)\( \times \)4\( + \)17」
  11. 「エラー訂正レベル」は「L(7%の汚れまで)」「M(15%の汚れまで)」「Q(25%の汚れまで)」「H(30%の汚れまで)」の4種類ある。
  12. 「エラー訂正レベル」が「L」だと「QRコード」で表現できるデータの量は最大で、「H」のときに最小になる。
  13. 「1bit」とは白・黒、1・0のような2種類の情報を表すことができる能力のことで、文字を増やすと「2bit(4種類)」「3bit(8種類)」と表現できる種類が増える
  14. 日常の言葉を「エンコード」して「コード(符号)」に置き換え、「コード(符号)」を「デコード」して日常の言葉に戻す
  15. QRコードの「エンコード」方式は「数字モード」「英数字モード」「漢字モード」「8bitモード」の4種類
  16. どの「エンコード」方式でも、データは「モード指示子」+「文字数指示子」+「データ」+「終端パターン」+「埋め草ビット」+「埋め草ワード」となる
  17. QRコードには「白」と「黒」を読み間違えても、元の情報を復元する「エラー訂正」能力が備わっている
  18. 「エラー訂正」は読み取れた(聞き取れた)言葉から最も近い「ありえそうな単語」を推測すること
  19. 「エラー訂正力が強い」ということは、「あえて使っていない単語が多い」ということと同じで、効率性は悪い
  20. 1,0でできている符号では「ハミング距離(2つの符号間で1と0が異なる箇所の個数)」があり、符号間で最も「ハミング距離」が小さいものを「最小距離」と呼ぶ
  21. 使える「単語」を制限すると「最小距離」は大きくなる
  22. 「最小距離」の半分までのエラーであれば訂正することができる
  23. 「単語」を「符号化」したものに、適当な「1」や「0」を後ろにつけると「最小距離」が大きい「エラー訂正機能付符号」になる
  24. 「エラー訂正機能付符号」を作る際は「符号」に「行列(生成行列)」を掛け算する。
  25. 「QRコード」は「リード・ソロモン符号」と呼ばれる方法で「エラー訂正機能付符号」を作る
  26. 「行列」は数字を並べただけのもので、もともとは「連立方程式」の係数だけ抜き取ってならべたもの
  27. 「行列」の「足し算」「引き算」は各「行列」の要素同士を「足し算」「引き算」したもの
  28. 「行列」の「掛け算」は、左の「行列」から「行」を取り出し、右の「行列」から「列」を取り出して、それぞれの要素を掛け算して足し合わせる
  29. 左の「行列」の大きさが「a行b列」で、右の「行列」の大きさが「b行c列」だった時、「掛け算」結果の行列は「a行c列」になる
  30. 「行列」の「掛け算」は順番を変えると結果も変わる
  31. 「掛け算」しても結果を変えない行列を「単位行列」と呼び、「掛け算」すると結果が「単位行列」になる行列を「逆行列」と呼ぶ
  32. 「行列」の特徴を表している「数字」を「行列式」と呼ぶ。「行列式」は「正方行列」だけが持っている
  33. 「並び替え」は「置換」によってい表すことができ、偶数回の「置換」でできる「並び替え」を「遇置換」、奇数回の「置換」でできる「並び替え」を「奇置換」という
  34. 「行列式」は各列から数字を選択し「掛け算」し、符号をつけた(「遇置換→(+)」「奇置換→(-)」たものを全ての選択パターンで足し合わせる。
  35. 「列」で計算しても、「行」で計算しても結果は同じ
  36. 「全てが0の列」、もしくは、「すべてが0の行」があれば「行列式」は「0」
  37. 「列」を入れ替えたら「行列式」の符号が変わる。「行」を入れ替えても「行列式」の符号が変わる。
  38. 全く同じ「行」が2個以上あれば「行列式」は「0」。全く同じ「列」が2個以上あっても「行列式」は「0」
  39. ある「行列」の「行列式」は、その「行列」の1つの「列」(もしくは「行」)を2つに分割して、2つの「行列」の「行列式」の「足し算」にすることができる
  40. ある「行」に違う「行」を「足し引き」しても、「行列式」の結果は変わらない。ある「列」に違う「列」を「足し引き」しても、「行列式」の結果は変わらない。
  41. ある「行(もしくは列)」を「定数倍」した「行列」の「行列式」は、「定数倍」する前の「行列」の「行列式」に定数をかけたものと同じ
  42. 2つの「行列」を「掛け算」した結果の「行列」の「行列式」と、それぞれの「行列」の「行列式」を「掛け算」した結果は同じ((\ \left| \mathb{A} \times \mathb{B} \right| = \left| \mathb{A} \right| \times \left| \mathb{B} \right| \))
  43. 「連立方程式」の係数を抜き出した「行列」の「行列式」の値が「0」になるということは、元の「連立方程式」が「不良設定問題」である
  44. 「逆行列」は「正方行列」かつ「行列式」の値が「0」でない「行列」だけに存在する
  45. 「\((-1)^{(i+j)} \times (元の行列からi行目とj列目を取り去った行列) \)」を「余因子行列」と呼ぶ
  46. 「行列式」は「余因子展開」を使うと、1サイズ小さい「行列」の「行列式」の「足し算」に展開することができる
  47. 「逆行列」は「(元の「行列」の「行列式」の逆数)\(\times\)(x行・y列目の要素が<元の行列のy行・x列目を取り除いた「余因子行列」の「行列式」>となる「行列」)」
  48. 「階段行列」は上の行から、左側(0の部分を除きます)を1にして、その行より下の行の左側が0になるように適当な数字をかけて足し算・引き算するというのを繰り返して作る
  49. 「ランク」はその「行列」の中の独立した行(または列)の数で、「連立方程式」の係数を「行列」にした場合、未知数の数より「ランク」が低ければ「不良設定問題」となる
  50. 「符号」のサイズが1行n列、「エラー訂正付符号」のサイズが1行m列のとき、「生成行列」はn行m列になる
  51. 「QRコード」で利用される「エラー訂正機能付符号」は「リード・ソロモン符号」と呼ばれるもの
  52. 「検査行列」を「エラー訂正機能付符号」に「掛け算」すると結果は「ゼロ行列」になる。逆に「ゼロ行列」にならないと、読み取った「エラー訂正機能付符号」が間違っている
  53. エラー訂正機能のスペックは「n(「エラー訂正機能付符号」の「長さ」)」、「k(実質的に単語を表現する桁数)」、「d(「エラー訂正機能付符号」の間の「最小距離」)」の3つ
  54. エラー訂正機能のスペックの「n(「エラー訂正機能付符号」の「長さ」)」は「検査行列」の行数と同じ
  55. エラー訂正機能のスペックの「k(「実質的に単語を表現する桁数)」は「検査行列」をn行m列だとすると、「n-(検査行列のランク)」となる
  56. 同じ仲間の「エラー訂正機能付符号」を2つ用意すると、それらを「引き算」した結果も同じ仲間の「エラー訂正機能付符号」の1つになる
  57. 「エラー訂正機能付符号」軍団の中の「最小距離」は、その「エラー訂正機能付符号」軍団の中で最も小さい「ハミング重み」と同じになる
  58. エラー訂正機能のスペックの「d(「エラー訂正機能付符号」の間の「最小距離」)」は「(「検査行列」の「ランク」)+1」以上となる
  59. 「シングルトン限界式」は「d(「エラー訂正機能付符号」の間の「最小距離」)」が「n(「エラー訂正機能付符号」の「長さ」)-k(実質的に単語を表現する桁数)+1」以下になること
  60. リード・ソロモンの「検査行列」は、x行y列の要素が\(\alpha^{(x-1)(y-1)}\)で、xはn行まで、yは2t列までの「行列」
  61. リード・ソロモンの「検査行列」のランクは2t
  62. リード・ソロモンの「検査行列」の特徴は、「エラー訂正機能付符号」の「長さ」はn、実質的に単語を表現する桁数)はn-2t、「エラー訂正機能付符号」の間の「最小距離」は2t+1
  63. 「ヴァンデルモンド行列」の行列式は、行列の要素に同じ値のものがなければ「0」にはならない。
  64. 受信符号に検査行列を掛け算した結果は、発生したエラーに検査行列を掛けたものと同じになる、「\(\boldsymbol{Y} \times \boldsymbol{H} = \boldsymbol{E} \times \boldsymbol{H}\)」
  65. 「\(\boldsymbol{Y} \times \boldsymbol{H} = \boldsymbol{E} \times \boldsymbol{H}\)」を展開すると、方程式の数がn個、未知数が2t個の連立方程式になる
  66. リード・ソロモン符号の解き方は、「01.エラーの発生個数」「02.エラーの発生位置」「03.エラーの内容」の3ステップ
  67. \(\begin{vmatrix} S_0 & S_1 & \ldots & S_{j-1} \\ S_1 & S_2 & \ldots & S_{j} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ S_{j-1} & S_{j} & \ldots & S_{ 2j-2 } \\ \end{vmatrix}\)という行列式の\(j\)の値を\(t\)から1つずつ減らしていき、初めて行列式の値が「0」以外になった時の\(j\)がエラーの発生個数になる。
  68. エラーが発生している位置に対応する\(\alpha\)の「逆数」(つまり、\(\alpha^{-p_0},\alpha^{-p_1},\cdots ,\alpha^{-p_{j-2}},\alpha^{-p_{j-1}}\)を入力したときだけ「0]を出力する関数を、\(\boldsymbol{Y} \)と\(\boldsymbol{H}\)の情報から作ることができ、エラーの位置を求めることができる
  69. エラーの位置が分かった状態であれば、元の「\(\boldsymbol{Y} \times \boldsymbol{H} = \boldsymbol{E} \times \boldsymbol{H}\)」を普通の連立方程式のように解くことができ、「エラーの内容」を求めることができる
  70. 多項式を多項式で割り算することができ、割り算した商を\(Q(x)\)、余りを\(R(x)\)とすると、「\(f(x) = g(x)Q(x) + R(x)\)」と書ける
  71. 次数が\(f\)の多項式を次数が\(g\)の多項式で割り算すると余りの多項式の次数は\(g\)未満になる
  72. 多項式\(f(x)\)の解(\(f(a)=0\)となる\(a\)の値)を使うと、\(f(x)=(x-a)R(x)\)と因数分解できる(剰余の定理)
  73. 多項式\(f(x)\)は\(f(x) = (x-a_1)(x-a_2)(x-a_3) \cdots (x-a_{(n-2)})(x-a_{(n-1)})(x-a_{n})\)と因数分解できる(ただし、\(a\)は複素数になることもある)
  74. \(x_0\)〜\(x_{(n-1)}\)を係数にもつ\(n-1\)次の多項式\(f(z)\)(\(f(z)=z^0 x_0 + z^1 x_1 + z^2 x_2 + \cdots + z^{(n-3)} x_{(n-3)} + z^{(n-2)} x_{n-2} + z^{(n-1)}x_{(n-1)})を\((z-\alpha^0)(z-\alpha^1)(z-\alpha^2) \cdots (z-\alpha^{(2t-3)})(z-\alpha^{(2t-2)})(z-\alpha^{(2t-1)})\)で割り切ることができれば、\(x_0\)〜\(x_{(n-1)}\)はリード・ソロモン符号
  75. メッセージ多項式\((m(z)=z^0 m_0 + z^1 m_1 + z^2 m_2 + \cdots + z^{(k-3)} m_{(k-3)} + z^{(k-2)} m_{(k-2)} + z^{(k-1)}m_{(k-1)})\)に\(z^{2t}\)を掛けて、\((z-\alpha^0)(z-\alpha^1)(z-\alpha^2) \cdots (z-\alpha^{(2t-3)})(z-\alpha^{(2t-2)})(z-\alpha^{(2t-1)})\)で割り算した余り\(R(z)\)の多項式の係数を、元のメッセージ符号に付け加えると、リード・ソロモン符号になる
  76. 「01.加法と乗法が定義されている」「02.演算が閉じている」「03.結合法則が成り立つ」「04.単位元がある」「05.逆元がある」「06.可換である」の6個のルールを満たす集合を「体」と呼ぶ
  77. 「体」であれば、その集合はここで解説している符号化やエラー訂正の理論がそのまま適用できる
  78. QRコードは8桁の多項式(\(ax^7+bx^6+cx^5+dx^4+ex^3+fx^2+gx+h\)を要素とする「体」を使ってリード・ソロモン符号の計算をする

「多項式」はルール05(逆元)を満たしてるの?

それでは、前回に引き続き、ルール05(逆元)についてみてみましょう(「「足し算」と「掛け算」に対してそれぞれ逆元があるかみてみましょう)

まず、「足し算」の逆元ですが、それは「その多項式そのもの」になります。
例えば、「\(1x^7+1x^6+0x^5+1x^4+1x^3+1x^2+0x^1+0\)」の逆元は「\(1x^7+1x^6+0x^5+1x^4+1x^3+1x^2+0x^1+0\)」になります。
なぜなら、多項式の係数は「1」か「0」だったので、同じ多項式を足し算すると、係数は「0」か「2」になります。
そのため、2で割った余りを最終的な係数とすると、すべての係数は「0」になり、つまり足し算の単位元「0」になります。
ということは、多項式そのものが逆元になっているのです。

次に、掛け算の逆元があるかみてみましょう。
ターゲットとする多項式を\(A(x)\)と置きます。そして、この\(A(x)\)の逆元を\(Z(x)\)とします。
さらに、掛け算した結果を割り算するために使っていた「\(x^8+x^4+x^3+x^2+1\)」を\(T(x)\)とします。(←毎回書くのが面倒くさいからです)
もし、\(A(x)\)に逆元があるとすると、\(A(x) \times Z(x)\)の結果を\(T(x)\)で割り算したら、余りが「1」になるような\(Z(x)\)が存在するということです。
(存在するかというのは、今考えている\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)という形式で書けるかというということです。ちなみに、(\(a_7,a_6,a_5,a_4,a_3,a_2,a_1,a_0\))は1か0のどちらかです)
数式で表現すると次のように言えます。
$$ A(x) \times Z(x)=T(x) \times Q(x) + 1 $$ ちなみに、\(Q(x)\)は割り算した商です。この式は少し変形すると次のようにかけます。
$$ A(x) \times Z(x) - T(x) \times Q(x)= 1 $$
結論から言えば、\(A(x)\)と\(T(x)\)が「互いに素」であれば、こういった\(Z(x)\)が存在するといえるのです。
つまり、\(A(x)\)と\(T(x)\)が「互いに素」であれば、掛け算の場合でも逆元が存在することになります。

タガイニニソ?

互いに素ってなんでしょうか?
それは、\(A(x)\)と\(T(x)\)をそれぞれ因数分解したときに、同じ因数が「ない」ということです。
例えば、\(x^2+3x+1\)という式と、\(x^2+6x+5\)という式が互いに素かどうかみてみます。
\(x^2+3x+1\)は、\((x+1)(x+2)\)とかけます。一方、\(x^2+6x+5\)は\((x+1)(x+5)\)とかけます。
この二つの式は、\((x+1)\)を共通の「因数」として持っています。こういう場合は同じ因数があるので、「互いに素」とはいいません。

次に、\(x^2+5x+4\)という式と、\(x^2+5x+6\)の場合をみてみましょう。これらの多項式はそれぞれ因数分解した結果は\((x+1)(x+4)\)と\((x+2)(x+3)\)となり、共通な因数は持ちません。
こういう場合、「互いに素」といいます。

では、どうして\(A(x)\)と\(T(x)\)が「互いに素」であれば、こういった\(Z(x)\)が存在するといえるのでしょうか?

寄り道をちょっとだけ

\(Z(x)\)の存在を考える前に、一つだけ寄り道させてください。
それは、「多項式の集団からなる体であれば、その中で最も次数の小さい式(\(d(x)\))を選ぶと、\(d(x)\)以外のすべての式は\(d(x)\)で割り切れる」という主張を確認させてほしいのです。
ほほーう。ふーん。。。。・・・・。
まぁ、沈黙しないでくださいな。不思議なことを言っているようですが、意外に簡単に証明できます。
もし、多項式の集団の中に、集団の中で最も小さい次数をもつ\(d(x)\)で割り切れないものがあるとしましょう。それを\(f(x)\)と書きます。すると、\(f(x)\)は次のようにかけます。
$$ f(x) = d(x) \times Q(x) + R(x) $$ \(Q(x)\)と\(R(x)\)はそれぞれ、割り算したときの商と余りになります。
ここでのポイントは、\(R(x)\)は\(d(x)\)よりも「次数」が小さいということになります(割り算をした結果だから当然ですね)。
あと、もう一つのポイントは\(Q(x)\)は今考えている体に含まれる多項式の集団の中から選んできているということです。

この式を変形すると次のようになります。
$$ R(x) = f(x) - d(x) \times Q(x) $$ さて、\(f(x)\)、\(d(x)\)、\(Q(x)\)は今考えている体に含まれる多項式の集団の中から選んできたものでした。
だから、\(f(x)\)、\(d(x)\)、\(Q(x)\)を組み合わせて、足し算・掛け算した結果も、今考えている体に含まれる多項式の集団の中の要素になります。
そうすると\(R(x)\)も今考えている体に含まれる多項式の集団の中にいるということです。
あれ、でもそうすると変なことになりません?
というのも、今考えている体に含まれる多項式の集団の中で\(d(x)\)が最も次数の小さい要素を選んできたつもりでした。
でも、\(d(x)\)で割り切れない多項式\(f(x)\)があると考えると、\(d(x)\)より次数の小さい\(R(x)\)が出てきてしまいました・・・これは、変ですね。
これは、そもそも、\(d(x)\)で割り切れない多項式\(f(x)\)があると考えたことに間違いがあったのです。
ということは、今考えている体に含まれる多項式の集団の中要素の多項式はすべて\(d(x)\)で割り切れるということになりますね。

寄り道終了

さあ、ここでいよいよ元の問題に戻ってみたいと思います。もともとは、\(A(x)\)と\(T(x)\)が「互いに素」であれば、こういった\(Z(x)\)が存在するかどうかいえるかということです。
つまり、次の数式が成り立つ\(Z(x)\)が存在するかということでしたね。 $$ A(x) \times Z(x) - T(x) \times Q(x)= 1 $$ ここででてくる、\(A(x)\)や\(Z(x)\)、\(T(x)\)、\(Q(x)\)は、\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができる多項式の体の集団の要素でした。
ここでは、\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)とは別の体を考えてみます。
それは、次のように表せる多項式の集団からなる体です。
$$ k(x) = A(x) \times p(x) - T(x) \times v(x) $$ ここで出てくる\(A(x)\)や\(T(x)\)は決まった多項式で、\(p(x)\)や\(v(x)\)は\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができる多項式であれば何でもよいです。
つまり、新たに考えているこの体は、多項式同志の掛け算から他の多項式同志の掛け算を引いた形になっている多項式すべてです。
この\(k(x)\)という多項式の集団は「体」のルール01〜06を守っています。
(足し算と掛け算の定義は、それぞれ、先ほど\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができる多項式の集団で定義した足し算と掛け算と同じです。)
本当はルール01〜06までを確認しなければいけないのですが、体のルール02(演算が閉じている)について「足し算」の部分を確かめるだけでなんとなく成り立つことを感じてください。
例えば、\(k(x)\)という多項式の集団の中に、以下の2つの要素があったとします。
$$ k_1(x) = A(x) \times p_1(x) - T(x) \times v_1(x) k_2(x) = A(x) \times p_2(x) - T(x) \times v_2(x) $$ \(k_1(x)\)と\(k_2(x)\)を足し算した結果は次のようになります。
$$ k_1(x)+k_2(x) = A(x) \times (p_1(x) +p_2(x)) - T(x) \times(v_1(x) + v_2(x)) $$ ここで、\((p_1(x) +p_2(x))\)と\((v_1(x) + v_2(x))\)は、先ほど出てきた、\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができる多項式の集団の要素同士の足し算なので、結局\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができる多項式の集団の要素になります。
そのため、結局\(k_1(x)+k_2(x)\)は、\(k(x)\)という多項式の集団の中の要素となるので、足し算によっても要素をはみ出さないことがわかりました。
\(k(x)\)が体なので、先ほどの話では、この中に最小の次数をもつ多項式\(d(x)\)が存在し、\(k(x)\)の他の要素をすべて割り切ることができます。
ちなみに、\(d(x)\)も、多項式同志の掛け算から他の多項式同志の掛け算を引いた形になっているはずなので、次のように書くことにします。
$$ d(x) = A(x) \times p_0(x) - T(x) \times v_0(x) $$ さて、\(k(x)\)の体の定義をもう一度みてみましょう。
$$ k(x) = A(x) \times p(x) - T(x) \times v(x) $$ \(p(x)\)と\(v(x)\)はそれぞれ、、\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができる多項式の集団の要素なので、どちらとも「0」や「1」となることもあり得ます。
((\(a_7,a_6,a_5,a_4,a_3,a_2,a_1,a_0\))のすべてが「0」だった場合に「0」になるし、(\(a_7,a_6,a_5,a_4,a_3,a_2,a_1\))の全てが「0」で、\(a_0\)が「1」の場合は「1」になります)
\(p(x)=0,v(x)=1\)の場合を考えると、\(k(x)=T(x)\)となりますし、\(p(x)=1,v(x)=0\)の場合を考えると、\(k(x)=A(x)\)となるので、\(A(x)\)も\(T(x)\)も体\(k(x)\)のメンバーの1つとなります。

すると、\(A(x)\)も\(T(x)\)も\(d(x)\)で割り切れることになります。でもちょっと待ってください。\(A(x)\)と\(T(x)\)は互いに素だったのですよね?
ということは、お互いをすっきり割り算することができる共通因数はなかったのでした。でも\(d(x)\)はお互いを割り切れというのです・・・。
この二つの主張を成り立たせるには、\(d(x)\)を「1」にするしかありません。
もし\(d(x)\)が\((x+1)\)というような多項式だと、\(A(x)\)と\(T(x)\)は互いに素ということが嘘になってしまうからです。

では、\(d(x)=1\)とおきます。
\(d(x)\)の定義は「\(d(x) = A(x) \times p_0(x) - T(x) \times v_0(x)\)」だったので、これは「\(1 = A(x) \times p_0(x) - T(x) \times v_0(x)\)」となります。
これは、この式を成り立たせる\(p_0(x)\)や\(u_0(x)\)が存在するということを言っています。
このような結果になった原因は「\(A(x)\)と\(T(x)\)は互いに素」だったことにあります。
「\(A(x)\)と\(T(x)\)は互いに素」じゃなかった場合、\(d(x)\)を\(A(x)\)と\(T(x)\)の共通因数の多項式(例えば\((x^2+1)\とか)にすることができます。
そうすると、「\(d(x) = A(x) \times p_0(x) - T(x) \times v_0(x)\)」となり、「\(1 = A(x) \times \frac{ p_0(x) }{ d(x) } - T(x) \times \frac{ v_0(x) }{ d(x) }\)」となるのですが、こうするとちょっと問題が起きます。
それはなにかというと、\(\frac{ p_0(x) }{ d(x) }\)が\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)とかけるかどうか保証がないのです。
もし、\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書けない場合は\(\frac{ p_0(x) }{ d(x) }\)は「存在しない」ことになってしまいます。。そのため、「\(d(x)=1\)」という条件がとても重要になるのです。

初めの疑問に戻りましょう

あれ?ここで、もともとの疑問を再度掲載してみましょう。
$$ A(x) \times Z(x) - T(x) \times Q(x)= 1 $$ この式を成り立たせる\(Z(x)\)や\(Q(x)\)が存在するかどうかが問題でした。
もし、「\(A(x)\)と\(T(x)\)は互いに素」であれば、先ほどの流れで\(p_0(x)\)や\(u_0(x)\)がこの式を成り立たせるものでした。
つまり、もし、「\(A(x)\)と\(T(x)\)は互いに素」であれば、\(Z(x)\)や\(Q(x)\)の存在が確認できたのです!!!
めでたしめでたしです!!!

\(A(x)\)と\(T(x)\)は互いに素なの?

では、「\(A(x)\)と\(T(x)\)は互いに素」といえるのでしょうか?
\(A(x)\)は逆元を求めたいターゲットとなる多項式なので、\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができる多項式の集団のどれを当てはめてもよいです。
一方、\(T(x)\)は、大人の事情で勝手に決めた「\(x^8+x^4+x^3+x^2+1\)」という多項式でした。
実はこの「\(x^8+x^4+x^3+x^2+1\)」は「因数分解ができない」多項式になっているんです。
(ここで、「因数分解できない」というのは\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)の多項式の集団の要素で因数分解できないということです)
ということは、「\(x^8+x^4+x^3+x^2+1\)」はどんな多項式とも「共通の因数」を持つことができません。(だって、「\(x^8+x^4+x^3+x^2+1\)」自体に因数がないので・・・)
そのため、絶対に「\(A(x)\)と\(T(x)\)は互いに素」といえるのです。
このような「因数分解できない多項式」を「既約多項式」と呼びます。大人の事情で決めた「\(x^8+x^4+x^3+x^2+1\)」は次数が「8」の「既約多項式」だったのです。
(次数が「8」である理由は、この多項式で割り算した余りの次数は「7」以下となり、\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができるからです)
そのため、次数が「8」で因数分解できない多項式(既約多項式 )であれば、必ずしも「\(x^8+x^4+x^3+x^2+1\)」を使う必要はありません。
(他にも次数が「8」の既約多項式はあるのですが、QRコードでは「\(x^8+x^4+x^3+x^2+1\)」を使いなさいという指定があるので、この解説ではこの多項式をつかっています)

このことは、さかのぼって、\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができる多項式の集団に「掛け算の逆元」があることを意味してます。
ということは、さらにさかのぼって、\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができる多項式の集団は「体」であることを意味しています。
ということは、さらにさらにさかのぼって、、\(a_7x^7+a_6x^6+a_5x^5+a_4x^4+a_3x^3+a_2x^2+a_1x^1+a_0x^0\)と書くことができる多項式の集団をリード・ソロモンの計算に使ってもよいということになります。

さて、「多項式」が体になることがわかったので、次回はもう少し具体的に、QRコードでの活用方法についてみていきましょう。